東京地方裁判所 昭和47年(ワ)10073号 判決 1975年8月29日
原告 川村フミ
被告 国
訴訟代理人 房村精一 岩谷久明 ほか二名
主文
本件訴を却下する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 原告
別紙目録記載の土地が原告の所有であることを確認する。
訴訟費用は被告の負担とする。
旨の判決。
二 被告
(一) 主文同旨の判決。
(二) 仮に本件訴が適法であるとすれば、
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
旨の判決。
第二主張
一 原告(請求原因)
(一) 別紙目録記載の土地はもと東京都足立区舎人町三〇四番墓地一七坪であつたが、舎人町土地改良区が施行した土地改良事業において昭和四四年四月一日になされた換地処分によつて、別紙目録記載の土地となつた(以下従前の土地および別紙目録記載の土地を「本件土地」と総称する)。
(二) ところで、本件土地について表示に関する登記がなされ、地目「墓地」、所有者「共有地」と記載され、所有者の住所、氏名、共有持分の記載はない。
(三) しかし、本件土地は古くから原告方の個人墓地であつた土地であり、現在は原告の所有である。即ち、本件土地はもと川村幸次郎の所有であつたが、同人は昭和五年五月二九日死亡し、養男子の川村敬が家督相続により本件土地の所有権を承継した。ところが、同人は昭和一二年一一月二三日死亡し、法定または指定の家督相続人がなかつたため家督相続人を選定すべきところ、右選定がなされないまま、昭和二二年法律第七十四号が施行されるに至つたため、民法附則第二五条第二項の規定により、その相続に関しては新法が適用され、川村敬の母川村たけが相続し、次いで川村たけが昭和三九年一〇月二三日死亡したため、原告が相続した。このようにして、本件土地の所有権は川村敬から川村たけに、川村たけから原告に順次承継された。
仮に川村敬が家督相続をしなかつたとしても、川村幸次郎が死亡した昭和五年当時においても、墓地の所有権は、慣習に従い祖先の祭祀を主宰すべき者がこれを承継するとされており、川村幸次郎の死亡に伴い川村敬が、次いで川村敬の死亡に伴い川村たけが本件土地の所有権をそれぞれ承継した。
(四) または選択的に次のとおり主張する。
本件土地は民法第一ないし第三編が施行された明治三一年七月一六日以降川村幸次郎において所有の意思をもつて平穏かつ公然と個人墓地として占有してきたものであり、大正七年七月一六日の経過とともに所有権の取得時効が完成した。右所有権は前記(三)の経緯を辿つて原告に承継された。
(五) しかるに、被告は本件土地が原告の所有に属することを争つているので、原告は自己名義で本件土地の所有権保存登記を経由するため被告との間で所有権の確認を得る必要がある。
二 被告(請求原因に対する認否)
請求原因第一、第二項の事実は認める。
同第三項の事実は争う。
同第四項の事実中、取得時効の点は不知。その余の事実は争う。
同第五項の事実は争う。被告はかつて原告に対し、本件土地の所有権を主張し、あるいは原告の所有権の帰属について原告と争つたこともない。原告と被告との間においては、いまだ判決によつて解決するに値する紛争の成熟がなく、原告の本件訴は確認の利益を欠く。よつて本案について判断するまでもなく、不適法として却下されるべきである。
第三証拠<省略>
理由
請求原因第一、第二項の事実は当事者間に争いがない。
そこで、原告が被告を相手どつて本件土地所有権の確認を求める訴の利益があるかについて検討する。
確認の訴の利益は、原告の権利または法律的地位に現存する不安を除去するため、原被告間で一定の権利関係の存否を判決によつて確認することが必要かつ適切である場合に認められる。従つて、確認の利益の有無については、原被告間の紛争が確認判決によつて即時解決しなければならない程度に成熟したものかどうかという視点からの判断がなされなければならない。そして、被告が原告の権利または法律的地位を否認したり、原告のそれと相容れない権利または法律的地位を主張したりして、原告に不安を与えている場合は、右にいう紛争の成熟(ないし即時確定の必要)があるとすべきである。本件土地について表示に関する登記がなされ、所有者「共有地」と記載されていることは前述のとおりであるが、右登記は被告に属する登記官が行政官庁として一定の審査をしたうえなした処分である(不動産登記法第一五二条所定の審査請求の対象たる「処分」に該当する。)。当該処分の内容が原告の権利と相容れないものとなつていることは否めないが、そこに、被告が私人たる原告と対等の次元に立ち、原告の利益と対立拮抗する利益を主張するという関係はなく、被告に属する登記官の国法上の行為が原告の権利に影響を与えるという関係しか見出せない。むしろ、原告の利益と対立拮抗する利益を主張する者と評価できるのは、右登記の所有者欄に記載された「共有地(の所有者)」であるとみるべきである。当該「共有地(の所有者)」が登記の記載上不特定である(不動産登記法第七八条第五号参照)ため、原告において本件土地につき自己名義の所有権保存登記を経由するに必要な所有者の更正登記手続にあたり添付すべき承諾書(同法第一〇〇条第一号、第八一条の七第一項)を得ることも、また訴を提起して承諾を命ずる判決あるいはその者との間で所有権を確認する判決を得ることもできないからといつて、直ちに被告との間で前叙の紛争の成熟があるということにはならない。
あるいは、本訴は、本件土地は無主物として国庫の所有に帰していたところ、時効により所有権を取得したので、前主である被告との間で所有権の確認を求めるという趣意に解する余地もなくはない。しかし、所有者欄に「共有地」とあることは所有者が存すると推定されるものであつて、所有者を特定しえないことをもつて本件土地が無主物であつたと断定することは無理である。
それ故、本件訴は確認の利益を欠くものとすべきである。
以上説明したとおりであり、本件訴は不適法として却下すべく、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 蕪山厳)
別紙 目録<省略>